ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

雨の日に読みたい本について

今日も今日とて雨ですねぇ。

私の住んでいる神奈川は連日の雨で、

コロナだから積極的に出かけるのも憚られるし、自宅待機の日曜日。

昨日はそもそも電車が止まって動く選択肢はなかった。

 

インドアの過ごし方も煮詰まりそう。

今は書庫整理を言い訳に音楽を聴きながらの読書三昧。

でも外が暗くてジメついた天気の日は、

根明な小説は温度差で気持ちが悪くなるから、

ちょっとしっとりした物が読みたくなりませんか。

雨音とジャズと、コーヒーをお供に読みたくなる小説について、

私の本棚から選んでみました。

 

1、「カフェかもめ亭」(村山早紀)
 村山さんは「コンビニたそがれ堂」シリーズが有名かな。
「かもめ亭」も同じ世界軸の物語で、ですます調の、児童書のような優しい語り口が落ち着く。ゆったりと柔らかい声の語り部から直接話を聴いているような感覚になる。海辺の街に古くから続いているカフェと、それを継いだ若いマスターと、そこにやってくる客が、不思議な話を紡いでいく世界は、アンニュイな感じもするけど、決して暗くはない。

 村山作品はみんなそうだけど、ぬくもりで寂しさを包み込むみたいな切なさがあって、憂鬱な月曜日の通勤電車や、出かけられない雨の日を穏やかにしてくれる効果がある、気がする。あくまでも個人の感想ですが。

 

2、「サーカスの夜に」(小川糸)
 「食堂かたつむり」とか「つるかめ助産院」とか、映像化された作品で有名な小川さんだけど、もちろんそれらの有名な方も読んだけど、私は「サーカスの夜に」がオススメ。ペンギンが宙を舞うくらいの思いっきりファンタジーだけど、魔法は使えないから、みんな精一杯自分の力で生きている物語。
 とにかく登場人物たちの個性が魅力なんだ。主人公は、十歳の身体から成長できなくなった少年。その少年がサーカスの世界に飛び込んで、団員たちとの関係の中で自分の価値を探していく、って言うと何かよくある青春小説のあら筋みたいでチープだな。違うんだ。少年の成長だけじゃなくて、人間の悲喜こもごもがもっと深くて、切なくて、温かい物語なんだ。
 全登場人物が魅力的で好きだけど、特に好きなのは綱渡りのナットー。元男性の美人で、踊るように綱を渡る。設定は一番強烈だけど、たぶん一番優しくて善い人。
 このサーカス自体が背負っている過去の事件や、個々の持つ背景がそれぞれ軽くないから全体的に仄暗さを纏うけど、雨上がりの虹を信じるような、心の芯の強さを感じる物語は、雨の日にも前向きになれるかなって思うのよね。

 

3、「f植物園の巣穴」(梨木香歩)
 梨木作品は雨のイメージが強い。巡り巡るもの、水や風、生命や縁がテーマに据えられるからかな。「家守奇譚」シリーズも好きだけど、雨の日に読むなら、「f植物園の巣穴」の方がいい。穴に落ちた主人公が、さらに水底の世界へ潜って、深く深くへと沈んでいく。水底の世界はいつも雨なんだ。
 穴に落ちた主人公っていうと、不思議の国のアリスみたいだな。そんな可愛い主人公ではないのに。主人公は色々な感情も思い出も飲み込んで、「こうあるべき男」として生きていた詰まらない男。不思議な世界の非科学的な現象を目にしても、自分の固定概念が捨てられない。そんな男が隠したものを暴かれて自己の殻を壊して、そして、忘れていた「千代」を見つけ出す、という物語。クライマックスは何度読んでも泣ける。
 いや、何言ってんだか分んないよね。でもこれ以上はどう足掻いてもネタバレになってしまいそうなんだ。

 

4、「岸辺の旅」(湯本香樹実)
 確かこれも映像化されたんじゃなかったかなぁと思って調べてみたら、2015年に映画化されていたらしい。
 旦那さん死んでるところから物語がスタートして、死んだ旦那と遺された妻の二人で旅を始めてしまうぶっ飛んだ設定なのに、断然引き込まれる。旦那が普通に飯食ってたり、仕事してたり、イヤなんでだよ!って思わんわけではないけど。妻の視点から語られるから、細かいことは「分からんけどそういうもんらしい」で済ませられるところもある。
 映画は見てないから断定はできないけど、これも原作の方が良いパターンじゃないかなぁ。私が元来アンチ映像化の人間だからってだけじゃなくて。繊細な心理描写が魅力の小説は、映像化したら「何が言いたいのか分からない」という感想になってしまいがちだから。
 死者と生者が、お互いに思うところを抱きつつ多くは語らず、ただ終着地を目指していくような退廃的な状況の中、それでも食べて働いて、時折出会いに足を留めながらも進んでいく最後の二人旅に、息苦しい気持ちになる。その空気感が雨の日に丁度良いような、そんな気がする。

 

5、「猫を抱いて象と泳ぐ」(小川洋子)
 これはタイトル買いした小説。作者が「博士の愛した数式」の人だと後から気づいた。
 主人公の呼び名が「リトル・アリョーヒン」ってなんだか心惹かれるものがありませんか?私だけでしょうか。私だけでもいいの。
 物語はチェスを主軸に進む。リトル・アリョーヒンは繊細な少年なんだけど、チェスの才能に恵まれていて、その才能を生かして人生の駒を進めていく。悲しい別れも挫折もあるけど、チェスの道を貫いていくリトル・アリョーヒンをつい応援したくなって、どうにかこの優しい主人公が報われてほしいと祈ってしまう。最後は、どうなんだろう。彼は、幸せだったのかな。報われたっていえるのかな。分からないけど、その分からない感じが物語の魅力の一つかも。
 特別に雨を印象付ける内容は一切ないのだけど、黙々とチェスの海を渡っていく少年や、その纏う雰囲気が静かで美しくて、明るくも暗くもない雨の日に似合っている、そんな感じ。

 

 雨の日には、こことは違う世界と繋がるような、少し不思議な物語が似合うのかもしれない。