ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

今日の一冊「新装版 霧のむこうのふしぎな町」柏葉幸子(講談社文庫)

私の大好きなジブリ作品、「千と千尋の神隠し」に影響を与えたという小説。
数年前に文庫版で購入しました。
元々児童書だから、薄くて軽くてとっても読みやすい。

千と千尋の神隠し」の気配は所々に感じるけど、
ストーリーとしては全くの別物。

まずトンネルではなく、霧を抜けて行くし、そもそも辿り着いたのが偶然ではない。
主人公の名前はリナで、ぽっちゃり体型の小学六年生。
甘ったれで泣き虫だったけど、千尋よりは断然気が強い。

その街に滞在するものは「働かざる者、食うべからず」というルールだけど、
働かないと滞在できない、というだけで、石炭や子豚にするぞという脅しもない。
千尋の職場は湯屋一択だったけど、リナは色々な店を手伝いに行く。

でも湯婆婆ポジションのピコット婆さんの口調は、確かに湯婆婆感が満載。
「なにをぐずぐずしているんだい」
「わたしはぐずはきらいだよ」
「あいさつもろくにできないのかい」
なんてリナとの初対面のときのセリフは、まんま湯婆婆のイメージ。

それ以外の登場人物に、特に「千と千尋」なイメージの人はいないなぁ。
基本的にはみんな初めっからリナに対して友好的だし。
攻撃的な人物には、リナちゃんは持ち前の気の強さで立ち向かって行くので痛快。
あ、リナが改心させた王子様の少年は、ちょっと坊っぽいのかな。
傍若無人な態度から、新しい世界に出会って意外と素直な少年に変わる感じとか。

あとは小鬼とかケンタウロスとか小人とか、想像の世界の生き物たちが、
自然にワラワラと登場して通り過ぎていって、人間はリナ以外いないという状況は
世界観としては共通事項に挙げられるのかな。
八百万の神様はいなくて、洋風な魔法生物的なものばかりだけど。
世界観といえば、四季折々の花々が常に咲いているという点もそうか。
いやしかし、無理に繋げようとするのも無粋か。それぞれ独立した世界なわけだし。

ハク様ポジションがいないのは、ちょっと物足りなさを感じる。
でもそれは私が「千と千尋の神隠し」を知っているからであって、
その知識なくこの物語を読んだら、十分に満足して楽しいと思う。