ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

今日の一冊「ジヴェルニーの食卓」原田マハ

原田マハは「カフーを待ちわびて」だけ読んだことがあったのかな。
あったら読む、程度の作家さんだったけど、これは好き。
そんなに分厚くないから、サクッと読み終わるかなって思ったけど、
案外読了に時間がかかった。

今回は19世紀末~20世紀初頭の頃のフランスの世界へ。

美術界の巨匠と呼ばれる、
アンリ・マティスエドガー・ドガポール・セザンヌクロード・モネ
の、4人を取り巻く人々が描かれた短編集。
戦争の時代であることも要因の一つとして、どれもどこか切なくて綺麗な物語だった。
ぶっちゃけ美術館に行くことは好きだけど、画家個人に興味は無かった。
短絡的にパッと見で絵が綺麗なら誰に描かれたとかどうでも良かったの。

モネとセザンヌは本物を見た記憶があったけど、他の二人は名前すら知らんかった。
名前でグーグル検索したら、この絵見たことあるわ!ってなるレベルの有名な絵だった。

今まではその絵が好きか嫌いか、単純な視点しか持ち得なかったけど、
その絵の描かれた背景、その時その画家がどんな状況にあったのか、
ということまで考えると、滅茶苦茶に深くて面白いなって思った。
特にこの時代のヨーロッパは大きな戦禍もあって、生きていることすら精一杯な状況で。
それでも絵を書き続けたって、それだけ取り憑かれていて、
それを支えた人たちもまた、その人に取り憑かれていたんだって思って。

一つの絵画に込められた怒りや悲しみや愛の感情までに向き合って、
歴史や画家個人の置かれた状況と照らし合わせながら美術館を巡ってみたくなった。

一番好きな登場人物は、最後のモネの章「ジヴェルニーの食卓」に出て来る元首相のクレマンソー。
色気より食い気な感じが、神様みたいな巨匠の世界よりも身近に感じてホッとする。

本人は登場しないけど、セザンヌの章の「タンギー爺さん」も好き。
お金よりも若い作家の才能を大切にして、夢を追う若者たちの味方であり続けた強さに憧れる。
その娘や妻の苦労は計り知れないけど。
この章は娘がセザンヌに送った書簡のみで構成されているタイプの話だけど、一番切なかった。

あーでも最初の「うつくしい墓」に出て来るマグノリアのマダムもオシャレで好きだなー。
何も語られないけど、愛が確かに存在している雰囲気が。ロマンスを感じる。

結果、全部好きじゃん(笑)
全体的に明るくないけど暗くもなくて、優しいのに激しい感情も確かにあって、
そんな感じの読み応えのある短編集でした。