ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

泣きたくなったら読む本「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩(角川文庫)

秋って気分落ち込みがちで、特に雨の前は空よりも曇よりする。
何かするのも億劫で、でも何もしないのも憂鬱で。
なんとなく泣きたいなーって気分の時に、つい手に取ってしまうのが
「村田エフェンディ滞土録」なんだよな。

ノスタルジックで、メランコリックで、異国情緒があって好き。
国境と友情、戦争と革命、全部切なくて泣ける。

これは村田青年がトルコに留学する物語なんだけど、
「エフェンディ」は現地の言葉で、「先生」みたいな敬称。
時代は明治で日本は開国直後、トルコも列強の脅威に晒されている。
トルコはヨーロッパとアジアの間で、
様々な民族・宗教・文化が入り乱れていて、面白そう。
そんな異国で村田は考古学を学んでいる。

下宿の女主人はイギリス人のディクソン夫人、
下宿仲間は気のいいドイツ人オットー、真面目なギリシア人ディミィトリス、
そして下宿のスタッフのトルコ人ムハンマド、と、拾われた鸚鵡。
それから、稲荷と現地の神々と、サラマンドラ(火の竜)やら何やら。
色々な縁に出会いながら、人々とは友情を育んでいくんだけど
最後は戦争でバラバラになって、その時代は遠ざかって、
日々の暮らしの中で消えてしまいそうになる。

ラストシーンを涙なしで読んだことがない。
歴史に残らない悲喜こもごもは、きっと遺跡のようにどこかで眠っているんだ。

そして、ちょいちょい出てくる名言が、私の行動にも影響してくる。
中でも、この物語でも重要なワードになってくるディミィトリスの
「私は人間だ。およそ人間に関わることで、私に無縁なことは一つもない」
って言葉は、人に親切にするときに感じる躊躇いを振り払ってくれる。

他にも色々と響く言葉はあるけど、全部書いてたらほぼ一冊分丸写しになりそう。