ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

今日の一冊「オリンピックの身代金」奥田英朗

オリンピック期間中には読み返したいと思っていたのを、ぎりぎり閉会式の日に読了。
これはね、やっぱり今読むべき物語だった。
オリンピックの開催の裏に、どれほどの犠牲や搾取があったのかって考えさせられる。

舞台は昭和の1964年の東京大会だけど。
主人公の島崎は東京の闇に兄を殺された青年。
無欲で優しい彼がどうしてオリンピックを人質にしたテロリズムに走ったのか、
彼が壊れていく様が、悲しいし切ない。確かに悪事に手を染めているのに応援したくなる。

そして、彼を追う警察やマスコミ関係者などとの、人物の対比が面白い。
島崎は秋田の貧乏な村の出身で、学業優秀だったために東大に進学した幸運な人間。
でも自分が享受している幸運と、村の人々の背負う命運との格差に疑問を抱いている。
警察の落合は一般的な中流階級の人間。
島崎の同窓生で、テレビ局に勤める須賀は東京出身で士族の家系であるエリート一家の落ちこぼれ。
それぞれの視点で語られる当時の日本は、より歪さを明確にする。

1964年のオリンピックが無事に開催されたことを知っているからこそ、
島崎の運命が気になって仕方がない。
最後までハラハラのサスペンスでした!