ひつじの部屋

多趣味・多経験を活かしたい

竜神が登場する小説といえば:「家守綺譚」(梨木香歩)

またパラパラと雨が降っている音が聞こえる。
私の地域では「また雨か~」程度で済んでいるけど、
それどころじゃない地域の皆様は不安な夜をお過ごしでしょうね。
何もできない自分は情けないし、歯がゆいし、無力の極み。
テルテル坊主じゃ何の慰みにもなりゃしない。

昼間に見た中国地方の雨雲レーダーの画像では、竜のような細長い雨雲がかかっていて、
上空から地上を眺める技術なんてなかった時代の人間が、
雨の神様を竜に例えたことって、なんだか凄いことなんじゃないかと思ったり。

竜神の気配を感じる小説といえば、梨木香歩の「家守綺譚」かな。
琵琶湖に棲む竜が出てくるわけではないけど、物語の節々で存在を感じる。
出てこないのに、重要な役割を担っているような。

私が持っている小説の河童出現率は異様に高いのだけど(選んで買っているわけではない)、
「家守綺譚」にもご他聞に漏れず河童が登場する。
なんなら主人公はキツネやタヌキに化かされるし、
庭のサルスベリに恋慕され、死んだ旧友と普通に会話をする。
それらの不思議の出来事を、四季の移ろいと共に受け入れていく主人公が、
なんだか危ういような逞しいような。
曖昧な存在は曖昧のまま、そのままで共存していく姿勢が、それはそれで日本人らしいような。

主人公の四季折々の記録を綴ったように、短く区切れた流れだから、
時間の無い時や、短い移動時間にも読みやすいところも好き。
一番好きなのは、「白木蓮」の章。

庭に雷が落ちたと思ったのに異変は無く、
主人公は白木蓮に季節外れの蕾を一つだけ見つける。
それをタツノオトシゴだと言い、高値で買い取ると申し出た者をキッパリと断り、
タツノオトシゴが空に帰るまでを見守る。そして共に見送った友人と、
―孵ったな。
―ああ帰った。
という会話をするのだけど、この余韻が痺れるんですよ。
この友人ってのが死んでたりするんですけどね。(ネタバレではない)

「家守綺譚」を読んだら、続編の「冬虫夏草」もぜひ読んでほしい。
それから、「村田エフェンディ滞土録」も同じ世界線で、
綿貫の(生きている)友人が主人公なので読んでほしい。
木槿」の章に名前だけ出てくる、トルコにいる友人の村田が主人公になって、
彼の視点から「家守綺譚」シリーズの後日談みたいなものが見られるので。

「家守綺譚」はしみじみと四季の移ろいや、日本の深い宗教観みたいなものを味わえるけど、
村田の物語は、もっとグローバルな視線で、国家とは何だろうって切なくなって、
これも何度読んでも、思い出しただけでも涙が出る。これは後日詳しく紹介したいですね。